踏み込み温床
中国山地の真ん中あたりに位置し、標高もほどほどにあるこの地では、トマトやナスなどを種から栽培する場合には、露地では時期が遅くなってしまうので、温床やビニールハウスで苗を育てるのが一般的です。うちでは微生物の活動による発熱を利用した『踏み込み温床』で苗を育てています。

1. 時期 2. 落ち葉集め 3. 枠作り 4. 踏み込み 5. ビニールかけ 6. 発熱と期間 7. 種まき 8. 良いところ 9. ネズミ被害 10. 終わりに
1. 時期
上田家では毎年3月中に温床を作ります。2月に温床を作って早めに育苗を始めれば、ホームセンターにトマトやナスなどの苗が並ぶ頃には同じような大きさの苗にすることができるのですが、2月の寒さの中では踏み込み温床だけの熱だけでは心もとなく、また、加温しなければならない期間も長くなり、温床を作りなおさなければならなくなってしまいます。

何より、あまり不自然な時期に作物を育てたくないというのが一番の理由でしょうか。
2. 落ち葉集め
温床の中に詰め込む落ち葉を集めます。温床作りの工程の中でこの作業が一番大変かもしれません。うちは近くにたくさん落ち葉がある場所があるので、毎年そこで集めています。今回集めたのは軽トラ3車分くらいの落ち葉です。写真の落ち葉は軽トラ1車分くらいの落ち葉です。多そうに見えても踏み込むとかなりかさが減るので、思った以上に落ち葉が必要になります。

落ち葉の中に白いはんぺん状の物体があることがあります。これは土着菌で、踏み込み温床内でも発熱するので、見つけたら落ち葉とともに集めておきます。雪の多い年は落ち葉が雪の重みで潰れているので、たくさん集めてもかさばらないので助かります。 踏み込み温床には落ち葉の他に、米ぬか、稲わら、大豆がら、野菜クズ、などを入れるので、それも準備しておきます。米ぬかは微生物の働きを助けるので必ず入れるようにしています。その他の材料はあるものを入れます。無ければ入れなくても大丈夫です。
3. 枠作り
踏み込み温床の枠は、保温性を持たせるようにしています。発生した熱を逃がさないためです。踏み込み温床で活躍するのは主に嫌気性の微生物なので、通気性はなくても大丈夫です。古畳や稲わら、板などを使ったやり方もあるようですが、うちは身近に手に入る木の杭と、竹、ススキを利用しています。 木の杭を何箇所かに打ち込み、竹で骨組みを作ります。その後、ススキを90センチくらいに切ったものを麻ひもで括りとめていきます。この際、保温性を持たせるために茅の厚さが10センチ以上になるように気をつけます。中に落ち葉などを入れてしっかりと踏み込むので、ある程度頑丈になるように作ります。

この枠は2年も使えば腐ってきて強度が下がるので、崩して畑に敷いて敷き藁や肥料代わりにします。
4. 踏み込み
まず完成した枠の半分の高さくらいまで落ち葉を入れます。その上に米ぬかを振りまき、稲藁や大豆がら、野菜くずなどを入れ、水をたっぷりとかけながらひたすら踏み込みます。この時、落ち葉がぐっしょりと濡れるくらいにこれでもかというくらいたっぷりと水を入れます。枠の半分くらいに入れた落ち葉は、踏み込むことで3分の1か4分の1くらいに減ります。

これを6回から8回ほど繰り返します。枠の高さの8割くらいの高さまで落ち葉を踏み込んだら、その上に土を被せます。土は落ち葉が隠れる程度で良いです。
5. ビニールかけ
発生した熱を逃がさないために上部にビニールをかけます。日差しの強い日中は暑くなりすぎるので、ビニールをめくりやすいようにしておきます。毎年いろいろな形を試しているのですが、この年は上の写真にあるように木の杭で物干しのような枠を作り、ビニールを切妻屋根のような形にたらし、ススキと竹の間に細く切った竹の板で挟み込んで止めるようにしました。

ダンポール(農業用のトンネルを作る弾性の強い細い棒)を使って屋根の骨組みを作った年もあったのですが、ビニールがススキに当たる部分に水がたまりやすいので要注意です。
6. 発熱と期間
温床が完成してから早ければ2日ほどで内部の温度が40℃くらいには上がります。この年は温度があまり上がらなかったのですが、おそらく水が足りなかったのだと思います。うちのやり方は割と雑だと思うのですが、毎年温度は上がってくれます。

たいてい1ヶ月くらいすると落ち葉の内部の温度も日中の外気温と変わらないくらいに下がってきます。本来なら温床を作り直して苗を移せば良いのですが、とても大変な作業になるので、やっていません。そのくらいになると4月でだいぶ暖かくなってきているので、ビニールで温度を調整するだけでも露地よりは暖かくなります。
7. 種まき
温床内の温度がある程度高くなったら種まきを行います。トマトやナスなどはポット蒔きしてトレーに入れています。サツマイモは区切りをして土をイモが隠れるくらいに入れ、埋めます。
8. 良いところ
  1. 電気やガスを使わない。
  2. 使い終わった温床の落ち葉が良い腐葉土になる。
  3. 落ち葉を集めるのが、子供達と一緒にできる良いイベントになっている。
  4. 落ち葉を集めることによって、山が管理できる。
9. ネズミ被害
温床内の苗がネズミに食害されるという年がありました。その年は前年の枠をそのまま使ったので、冬の間に保温性のある枠の中にネズミが住みついてしまったのだと思われます。

もうひとつの原因にそれまでいた猫がいなくなったこともあると思います。温床だけではなく、ビニールトンネルの中の苗にも被害があったからです。猫がネズミ退治してくれていたことを改めて思い知りました。温床内にネズミ捕りを仕掛けたりしたのですが、あまり効果はありませんでした。幸い新しく猫を飼い始めてからは大きな被害はありません。ちなみに、猫も暖かいところが好きなので、特に前に飼っていた猫は気づいたら温床の中にいることがありました。
10. 終わりに
初めて踏み込み温床を作った翌日、落ち葉の中にさした温度計の目盛が40℃近くに昇っていった時の感動を今でも覚えています。1日に何度も温度計を確認しました。

電気やガスなどのエネルギーを使えば、簡単に安定的に保温することができるのでしょうが、それがこれほど心を動かし、いつまでも残ったりはしないでしょう。自然の力を利用することは、手間がかかり、難しく、そしてその分面白いのだと思います。このページを読んでくれた方にその面白さが少しでも伝われば幸いです。そして、機会に恵まれた方は実際に踏み込み温床を試してみてください。
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